●<「ライド・オン・タイム」についての一問一答>
--『ライド・オン・タイム』は、いつの作品ですか?
山下: 1980年5月1日の発売です。
--『ライド・オン・タイム』は、山下達郎さんにとってどのような位置付けの作品ですか?
山下: この曲は私にとって文字通りのターニング・ポイントでした。私のミュージシャンとしてのスタンスは、『ライド・オン・タイム』以前と『ライド・オン・タイム』以後に、はっきりと区別されます。それほどこの作品のヒットは私にとって大きな意味を持つものでした。ソロのキャリア4年目にしてオリコンに初チャート・インしたシングルがいきなりベスト・テンでしたからね。不思議な気持ちでした。
--『ライド・オン・タイム』は、どういう経緯で生まれた作品ですか?
山下: 苦節ン年を経て、いよいよブレイクかと思われた1980年春、カセット・テープのCMタイアップの話が舞い込みました。私はそれまでもCM音楽をたくさん手がけていましたが、それまでと決定的に違ったのは、私自身が映像に登場するという企画でした。あとにも先にもテレビの画面に登場したのはあれ一度きりです。
--『ライド・オン・タイム』が、具体的に作品化するまでの過程は?
山下: まずはデモ・テープでしたが、その時点からそれまでとは違いました。現在まで20年以上私のレコーディングとライブのパートナーである、青山純(ドラム)・伊藤広規(ベース)・難波弘之(キーボード)の三人に私のギターを加えた、おなじみのリズム・セクションは、まさにこの『ライド・オン・タイム』のレコーディングからスタートしたのでした。この作品が転換点であったというのは、私に対する一般的な知名度が上がったことだけでなく、私の音楽的基盤の変化がこの作品と同時に起こったことにもよります。
--レコーディングの思い出は?
山下: 四人で練習スタジオに行き、何日もかかってリズム・パターンを決定しました。全員の意見を取り入れて作った『ライド・オン・タイム』のリズム・アレンジはとても独創的で、おかげで23年の時の流れにも耐えているというわけです。
--『ライド・オン・タイム』はライブでも数え切れないくらい演奏されたと思いますが、ライブでのエピソードなどは?
山下: 私のライブにいらっしゃる皆さんならよくご存じの、この曲のエンディングでノー・マイクでシャウトするあのネタは、別に誰が考えたわけでもなく、私が何か叫んで、誰かが楽器で答えて、そのうちにスタッフが悪ノリして脚立を持ち出して、その上に乗って、と言う具合に、何年もかかって自然に現在の形になったものです。ですからとても自然で無理がない。わざとらしくないんです。
--今回、『ライド・オン・タイム』はドラマ『GOOD LUCK!!』の主題歌となり、シングルとして再発されますが、そのことについては?
山下: まさに晴天の霹靂でした。でも、曲が生き返ることはとにかくうれしいです。この気持ちは口ではとても表せません。ましてそれが『ライド・オン・タイム』なんですから、なおさらです。関係者のみなさん、ありがとうございます。
--今回のシングル再発にあたって、特別に考慮したことは。
山下: 昨年のRCA/AIRカタログ再発の際に施したデジタル・リマスタリングより、もう少しシングル向けにと、再度リマスタリングをしました。ただ、この作品は、当節流行の、音を前に前に押し出すサウンド・メイキングとは正反対の、奥行きと拡がりが命のサウンドなので、あまり極端なデジタル・リマスタリングを行うと曲の情緒が台無しになります。したがってこれがギリギリの音圧です。あと、オリジナル・カラオケを倉庫で発見しました。本邦初公開ですので、これは昔からのファンの方には喜んでいただけると思います。カップリングの『あまく危険な香り』のオリジナル・カラオケも初出しです。
<RCA/AIRレーベルのカタログについて>
ソロ・シンガーとして活動を始めて、早いものでもう25年にもなります。
1976年、バンドを解散しソロ・シンガーとなって契約した会社が、RVC(現在のBMG)でした。以後、1982年に契約を終えムーン・レコード(現在はワーナー・ミュージック・ジャパンに吸収)に移籍するまでの6年の間に、オリジナル・アルバム6枚と2枚組ライブ、計7アイテムを制作しました。その間にRCAレーベルから自己のAIRレーベルへと移ったことから、仲間うちではあの時代をRCA/AIR時代と総称してなつかしんでいます。
発売当初はすべてアナログLP盤として制作されていたRCA/AIR時代の7枚のアルバムは、1980年代にCDが誕生してすぐにデジタル化され、現在も市場で売られていますが、以後は一度もマスターが変更されないまま、今日にいたっています。
デジタル・メディアの技術的進歩は、特に1990年代に入ってからは驚くべきものがあります。そうした現代のオーディオの尺度から見ますと、いまだに十数年前のマスターが使用されているRCA/AIRカタログの現状は、私にとってあまりに不本意であり、数年前から新たにリマスタリングをさせてもらえるようBMGに打診してきました。
このほどようやく念願がかない、RCA/AIR時代の7作品すべてをオリジナル・アナログ・マスター・テープからデジタル・リマスターをし直して再発する運びとなりました。
せっかくの機会なので、これもデジタル・リマスタリングのお約束ごとである、ボーナス・トラックを収録しようと、当時の未発表音源やライブ音源、カラオケなどを物色しましたが、20年以上の時の流れは音源の散逸や劣化といった問題を生み、ボーナス・トラックについては質量ともにすべてが当初の予定通りというわけには行きませんでした。10年前ならもっとたくさんのレア・アイテムを収録できたかもしれませんが、これも運命でしょう。
ともあれ、これら7枚のアルバムはどれも私がまだ20代だったころの作品のため、音楽的な熱意や衝動と同じくらい、未熟さや逡巡や苦悩といった要素もすべて含まれています。その意味ではまさしく青春の記念。甘酸っぱかったり、恥ずかしかったり、さまざまな感情とともにマスタリングを終えました。20年以上も前の自分の作品をこのような形で出しなおすことができ、まことに喜びに耐えません。
それより何より一番ありがたいのは、これらのアルバムをリアルタイムで聴いてくださっていた方々が、今でもライヴに来てくださり、さらには現在の私の作品も聴き続けてくださいます。
これ以上の幸せがありましょうか!!
今回の再発が、長い間私のミュージシャン人生を支えて来てくださった、そうしたたくさんの皆さんの思い出に少しでも貢献できたら、こんなにうれしいことはありません。
山下達郎